日の丸・君が代を尊重する保守派として、マスメディアに取り上げられることの多い橋下徹氏。
だが、その愛国者としてのイメージは本物なのか。「彼の影響力が無視できなくなった」と言う漫画家の小林よしのり氏と、「保守とは言えない」と断言する京都大学大学院准教授で、『TPP亡国論』(集英社新書)著者の中野剛志氏が、「橋下徹の愛国度」を論じる。
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小林:わし、橋下徹の「維新の会」は小泉構造改革と同じ流れだから、「どうせまた改革派だろ」のひと言で済むと思っていたんだよ。しかし今は政党政治が混沌とした状態で、自民党も構造改革路線を総括していない。すると国民は橋下徹の新しさに注目してしまう。その影響力を考えると、やはり一度ちゃんと仕分けしておく必要があるね。
中野:「維新の会」の政策は、1990年代から2000年代初頭にかけて流行して失敗した構造改革の焼き直しです。「維新の会」に集まった60代や70代のブレーンが40代、50代の時から主張し続けてきた政策で、時代遅れも甚だしい。そのせいで「失われた20年」になったわけですが、たしかに構造改革の総括をしていないから、再びこれが台頭してくるんでしょうね。
小林:彼らの主張は、憲法9条改正や国旗国歌の問題、靖国参拝など、わしが過去に取り組んできたテーマばかり。で、すでに自虐史観を相対化するところまでは成功したわけ。だから、保守と称する連中がいまだにその話をしていると「まだそれが好きなのか」とウンザリするんだ。
中野:今はそれを、リスクなしで主張できるんですよ。敵が強大だった時には戦わず、先駆者が切り開いた道を勝ち馬に乗って進んでいる。
小林:昔は、河村たかしみたいな南京虐殺否定発言をしたら、袋叩きだったよ。絶対に辞任しなきゃいけなかった。「愛国心を持っている」と言うだけでも叩かれたんだから。ところが今は、愛国心を強調するほうがポピュリズムになっている。だから構造改革を進める時に小泉が保守を取り込むために取った戦法も、靖国神社参拝だった。
中野:靖国参拝をすれば、日本の市場をアメリカに売り飛ばしていいのかという話ですよね。小泉政権も民主党政権も橋下市長も、「国民に選ばれたのだから、自分の政策はすべて信任された」と言いますが、有権者は全部の政策に賛成したわけではない。たとえば「自民党にお灸を据える」という意味で民主党に投票した人は、外国人参政権にまで賛成したわけではないでしょう。
「維新の会」も同じで、「彼らは愛国心が強い」と思って投票した人は、改革路線まで受け入れたわけではない。数多くの政策を並べたマニフェストを丸ごと支持できる政党はないのですから、政策で選ぶのは無理です。だから、結局は「この人なら大局的に判断を誤らないだろう」と人品骨柄や政治手法で選ぶしかありません。橋下を「独裁的だ」と批判すると、「政策で判断すべきだ」と反論されますが、これはナンセンスです。
※SAPIO2012年5月9・16日号